Q-sai@楽器挫折者救済合宿について
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10周年の節目に|きりばやしひろき

きりばやしひろき

きりばやしひろき
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1971年生まれ、山梨県出身。高校卒業後プロとしての活動をスタート。1994年『叫ぶ詩人の会』でメジャーデビュー。ドラマー、ギタリスト、キーボーディスト、作曲家、編曲家など音楽業の他、ラジオパーソナリティをはじめMCや連載執筆など多方面で活躍。著書多数。NHK「あなたもアーティスト 挫折者救済!きりばやしひろきのギター塾」や「助けて!きわめびと」他、TV、ラジオ、新聞、雑誌など各種メディア出演多数。社会の楽器演奏者人口を増やすことを目的として様々な活動に日々取り組んでおり、2011年「Quiree株式会社」を設立、代表取締役。2017年、ギター挫折者と未経験者のための演奏アシスト特許ツール+初級者向けメソッド「Qactus-カクタス」を考案・開発。

楽器挫折者救済合宿・主宰 きりばやしひろきからのメッセージ

「非効率からしか得られないもの」

もう10年も前の映画ですが、音楽をテーマにした「the Visitor」(邦題:扉をたたく人)という名画があります。主な舞台はニューヨーク。2001年の同時多発テロ以降のアメリカ合衆国の現実と、楽器を通じて芽生えた友情の物語。これ、まだの人はぜひ観てみてください。この映画は私自身のバイブルのひとつで、私が時々口にする例の訳のわからないことを少しでも理解するその助けになるかも知れません。


訳のわからないことと言えば、楽器挫折者救済合宿が15年目に突入しました。楽器に挫折した人や未経験者が次から次へと途切れることなくやって来ますが、気付けばこれまでに「合宿」といえる規模の開催だけでも延べ200回以上、それのみの参加者数が延べ2400名以上、扱われたメディアはテレビラジオ新聞雑誌webその他すべて合わせて150以上、向こう数ヶ月先の開催も未だ完売が続き…といった状況での、まさかの15年目突入。なんだか訳がわからないです。


楽器は、挫折が当たり前なのでしょうか。


SNS等の告知で既にご存知の通り、昨年から新たに業界最大手楽器店チェーンとのタッグで、いくつかの店舗に開店から閉店までお邪魔して店頭イベント&検証を実施させていただいておりまして、今後も首都圏に限らず各地に出没しますが、開催するたびに大変興味深いデータが取れています。

楽器挫折者をゼロにし、楽器人口あるいは音楽人口を増やすのが我々の目指すところなので、ターゲットは「楽器に挫折した人」ですが、正直なところ、合宿の現場以外でこの目的を果たすことの難しさに打ちのめされています。

統計上、楽器に挫折する人はビギナーの半数以上と言われますが、皮肉にも楽器店に来られるほぼ100%の未経験者は自分が挫折するとは夢にも思っていません。加えて、楽器に挫折した人はもはや楽器店には用はない、つまり完全に挫折してしまった人がそれを乗り越えるために楽器店に戻ってくることはない訳です。


挫折は彼らにとって望ましい結末なのでしょうか。まあ、挫折したくて楽器を始める人なんていませんよね。期待に満ちたあの大勢の来店客を見るたび、何としてでも彼らの夢見た場所へ送り届けたいという気持ちになります。

昨年、弦交換ボランティアなるものを企画し、都内の小さな会場でテストランを行ないました。弦交換が障害となってギターが続けられない人たちはもちろん、ボランティアとして手伝いにきてくれた経験者たちも実は弦交換に関して知らないことが多く、どちらにとっても学びの機会となり得る非常に有意義なものとなりました。何より、参加者たちがワイワイと助け合うその現場は活気に満ちており、厄介な弦交換を何とかするために来たにも関わらず「こんなに楽しいのならまた早く交換しに来たい」といった声も出るほど参加者には喜んでいただけたので、早速次回開催日程を設定し、募集をスタートさせました。


この日に参加された方々は既に気付いている筈ですが、弦交換がどれほどビギナーにとって大きな障害になっているかは実際にほとんど正しくは世に知られていません。教本やあるいはインターネットを見ればあちこちに弦交換の方法が紹介されていますが、実際このようなものでは根本の問題解決には至っていないのが実情。ひとまず楽器挫折者救済合宿が彼らのために自腹を切って定期開催する覚悟を決めました。

ボランティアでも見学でも取材でも暇つぶしでも何でもいい。どんなスタンスでも構いません。とにかく現場に来れば世の実情は一目瞭然なので、一人でも多くの方々に会場に足を運んでいただきたいと思っています。来場者には金銭負担のない純粋なボランティア活動の現場として機能させますし、何のハードルもないでしょう。

「見返りなど何もないのに全開催すべて会場経費を負担してくれるなんて、いくらあの素晴らしすぎる楽器挫折者救済合宿さんでもさすがに申し訳なさ過ぎるし、何か協力したい」と思った人たち、とにかくこのボランティアに積極的に参加してください。活動と言っても弦を交換するだけでなく、まだこの機会そのものを知らない数多くのビギナーへの周知という重要なアクションがあります。この程度のことなら、何らかの思いさえあれば誰にでも加勢できる筈。


ビギナーが弦を張り替えられるようになるだけで一体どれだけのギター人口が増加するか。挫折率から逆算し、はじき出してみると良いかも知れません。


このような活動や河口湖での定期開催合宿を通じ、どれも非効率ではありますが、ひとつひとつが確実に力になっているのを感じます。同時に、これも氷山の一角であるという現実を痛感させられますし、そのたびに途方もない絶望感に襲われたりもします。

新年早々あまり縁起のよろしくないフレーズを連発しておりますが、こんなネガティブなことを書けるのも恐らく何らかの勝算があるからかも知れません。


昨年6月、楽器挫折者救済合宿は、世界中のギター挫折者をゼロにするため、Qactus(カクタス)を発売しました。

これまで合宿の現場ではそれぞれの状況に応じて「初期段階の壁を乗り越えるため」のあの手この手を投じてきました。そして昨年、この15年間、200回を越える現場でのサンプリングデータをこの「Qactusスターターズキット」に凝縮させることに成功、実際に初期段階の壁を越えられずに悩んでいるビギナーに対し、確かな効果が確認されています。

また、症例にもよりますがハンディキャップを持つ方々にも有効であるとの報告が既にいくつか入ってきています。このニーズに関してもQactusは積極的に協力していくので、関係する施設等の方々は躊躇せずお問い合わせください。


ひとまず開発サイドとしては、これまで現場でしか出せなかったギター初心者への助け舟が、事実上、Qactusを通じて世界中の無数の挫折候補者たちに出せるようになり、多くのビギナーを救い得るその可能性に期待しているところですが、未知のものであるが故の苦難もあり、この有効打を必要な人々のために正しく届けるためのプロモーション活動に引き続き国内外を問わず東奔西走することとなります。

そのしわ寄せは合宿開催スケジュールにも及んでいますが、時期に偏りはあるものの、年間トータルでは最低でも例年と同じ数を打てるように調整していきますので、参加を検討中の皆さんはくれぐれも過度な心配をせず、かといってのんびりと構え過ぎもせず、何より自分自身のために「ここ」という開催スケジュールを決して逃さぬようにお願いしますね。


世の中には「非効率からしか得られないもの」があります。

挫折者を救う活動がその最たるものであるということは、長年この活動に取り組んでいる私自身がよく知っています。あまりにも非効率であるがゆえに真似しようと思ってもなかなか真似できるものではなく、これまでに「楽器挫折者救済合宿のようなものをやろうとトライして砕け散りました」という大手企業からの報告もいくつか受けています。

楽器挫折者救済合宿が15年間、延べ200回以上もの現場を消化して来られたのは、奇跡のようなスタッフたちがいて、奇跡のような関係組織に支えられ、奇跡のようなシチュエーションに恵まれたからに尽きるのですが、やはりその根底に、どんな非効率をも問題にしない激しい信念があったからこそだと思っています。どれひとつが欠けても楽器挫折者救済合宿は成り立たなかったでしょう。ゆえに、永続させるのは不可能だと考えています。非効率ゆえの宿命ですが、幸い奇跡はまだ続いているので「いつか参加したいけど、まだいいや」なんて呑気に構えている人たち、後回しにしないほうがよいと思います。


これに対し、一見Qactusは「効率よく勝手に世界中のギター挫折者を救うもの」に見えるかも知れません。しかし実際はこれも「非効率からしか得られないもの」のひとつであります。楽器を始める人は自分が挫折するなどとは夢にも思っていないし、挫折した頃には既に楽器店に出向くモチベーションさえ失っている訳で、世界中の楽器店の商品棚にQactusを並べておけば勝手に挫折者が救われる訳ではありません。

Qactusは、常に多くのビギナーに求められているこの極めて非効率な楽器挫折者救済合宿の活動をアシストするひとつの手駒に過ぎないのです。


実際には売り上げ以上の経費をかけて活動しているため、弊社Qactus部門のバランスシートは常に真っ赤っかですし、時差のある国々とのやり取りと国内の活動とをほぼ24時間体制で平行している事情で、実際は肉体的にも精神的にも合宿以上に過酷です。


そんな折、「特許で楽して儲けてるんじゃないの?」みたいなことを言われたり、インターネットでもQactusに対してろくに調べもせずに間違った情報を発信したりする人がいたりと、いくら命を削って頑張ってもそんな心ない人たちは世の中に結構いるのだということも学びながら、何より5人に4人と言われるギター挫折者たちと、せっかくこの世に生まれた無数のギターたちの無念のため、日々取り組んでいます。


そういえば角界のパイオニアたちは想像を絶する苦労話をいくつも持っていますよね。私自身もまさにそんな苦労話の渦中にいるというのが実感で、Qactusは今、たとえば初めて掃除機が登場した時代の人から「高価だしうるさいし汚い空気を出すし電気代はかかるし、ほうきのほうがいいだろ」といったことを言われている段階ですが、ここまでの活動の成果として少しずつ「ほうきよりも確実に部屋をきれいにできるモノだったんだ」という認識が広まりつつあり、やがては文化として無くてはならないものになっていく筈です。

「ギターに挫折したらQactusに頼れ」という考えが常識として世に定着するまでは、たとえどんなひがみや邪魔が入ろうが、この非効率の手を緩めずに参ります。


いつものように「楽器に挫折する人を減らすこと」を大前提として諸々お話しさせていただいてますが、そもそも、人はなぜ楽器を奏でるのでしょう? あるいは、なぜ音楽を聴くのでしょう? もちろん、理由はひとつでなくてもいいと思います。「楽器が弾けたら楽しいから」「音楽を聴いていると気分が良いから」ぐらいのことで全然よいと思います。音楽は海なので。

そんな「音楽」が、仮に世の中を少し良い状態に変えるものに成り得るのだとしたら、上記よりもひとつ高い次元で音楽と付き合ってみる価値もひょっとしたらあるのではないのかな、とも思うのです。

音楽を、単なる「音」ではなく「文化」として捉えることが仮にできたとしたら、しかもそんな共通意識が世界中のリスナーの心の中に宿り始めたとしたら、音楽の役割はだいぶ変わってくるでしょう。


話がますます長くなるのでここでは具体的なことは語りません。とにかく皆さん、レンタルショップにもあるでしょうし、DVDソフトを買ってもそれほど高価ではないでしょうから、冒頭で紹介した映画「the Visitor」(邦題:扉をたたく人)、機会を作ってぜひ観てみてくださいね。


新年早々、10年前の映画の宣伝をするという益々訳のわからないご挨拶ではありますが、見渡せば世界で起きているあれこれはどれも訳のわからないことばかり。この「the Visitor」という映画も、人間社会が「違い」を乗り越えられないことで実際に起こっている訳のわからない問題を生々しく扱っています。今、世界で起きているほとんどの問題をザッと見渡してみると、それらは「違い」を越えられない我々人間のキャパシティの事情だということに気付くでしょう。


様々な「違い」を乗り越えるために私たちができることは一体何なんでしょうね。自分とは違うものに対して「訳がわからない」と言ってしまうのが一番簡単で楽な道ですが、仮に、それぞれがそれぞれの「違い」に対して理解と尊敬の念を持つことができたら、恐らく我々の住む社会全体は、国内外が抱える様々な問題を今よりも少しだけ解決しやすい体質に変わるかも知れません。そんな状態を「世界平和」と呼ぶのかなと常々そう考えています。


人はなぜ楽器を奏でるのでしょう? なぜ音楽を聴くのでしょう?


とにもかくにも楽器挫折者救済合宿は、これまでの15年と変わらず様々な苦悩とともに、引き続き「訳のわからない方法」で、「楽器は、挫折が当たり前」でない世の中を作るために突っ走ります。


2018年 1月 1日 きりばやしひろき

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